背景・目的
・新型コロナウィルスの感染拡大防止には、感染経路となるウイルス飛沫の飛散・拡散経路を正しく推定し、感染拡大リスクの評価・予防対策の検討を進めることが重要となる。
・スーパーコンピューター“富岳”の計算能力を活用した高精度飛沫・エアロゾルの飛散シミュレーションを実施し、科学的知見に基づくデータを提示することで、感染リスクの評価とリスク低減策を提案する。
スパコン“富岳”によりウイルス飛沫の飛散・拡散状況を推定
飛沫飛散の様子(大声の場合・通常会話の場合)
・英語でone~tenを9秒間かけて発話した際(途中で一度吸気、これを繰り返す)における飛沫拡散の様子をシミュレートした。
・大声の場合には、1分間で2万5千個程度の飛沫が発生する。
・通常会話の場合には、1分間で1万千個程度の飛沫が発生する。
大声の場合(1分間で2万5千個程度の飛沫が発生)
通常会話の場合(1分間で1万個程度の飛沫が発生)
提供:理研・神戸大,協力:豊橋技科大・京工繊大・東工大・九大
感染者と対面で会話した際の感染リスク
・15分間しゃべっている感染者と対面した際の感染確率(※定義・算出方法はP.7参照 )を算出した。
・2m以上離れることで、感染リスクを大幅に低減させることが可能となる。
N0 :過去のクラスターイベントに基づき算出した感染に至るウイルス量 [viral copies]
本シミレーションでは基準を900、範囲を300~2000 としている
提供:理研・神戸大,協力:豊橋技科大・京工繊大・東工大・九大
感染者と対面で会話した際の感染リスク(変異株を考慮した場合)
・感染者が変異株だった場合を想定した感染リスクの変化について分析した。
※アルファ(英国)株(感染力1.32倍)(1),デルタ(インド)株(感染力2倍程度)とされている
・2mがリスク評価の指標になることは変わりないが、2m以内で大きくリスクが変化する。
N0 :過去のクラスターイベントに基づき算出した感染に至るウイルス量 [viral copies]。本シミレーションでは基準を900、範囲を300~2000 としている
(1)国立感染症研究所, 日本国内で報告された新規変異株症例の疫学的分析(第1報), 2021年4月5日
提供:理研・神戸大,協力:豊橋技科大・京工繊大・東工大・九大
感染者と対面で会話した際の感染リスク(変異株を考慮した場合)
・2mの距離を取って感染者と会話した場合における感染リスクの時間変化を分析した。
・従来株と同じ感染リスクに到達するのに変異株は半分以下の時間となる。
N0 :過去のクラスターイベントに基づき算出した感染に至るウイルス量 [viral copies]。本シミレーションでは基準を900、範囲を300~2000 としている
提供:理研・神戸大,協力:豊橋技科大・京工繊大・東工大・九大
感染者と対面で会話した際の感染リスク(変異株を考慮した場合)
・通常呼吸を想定して、ある時間に吸引する飛沫の総量(ml)をシミュレーションにより予測した。
・飛沫に含まれるウイルス数を仮定し、呼吸により体内に侵入するウイルス数(N)を算出。
・感染に至るウイルス数(No)を過去のクラスターイベントより仮定して、以下の式(ポアソン過程)で感染確率を推定(文献*より)。
(*) Prentiss MG, Chu A, Berggren KK. Superspreading Events Without Superspreaders: Using High Attack Rate Events to Estimate N o for Airborne Transmission of COVID-19. Posted October 23, 2020. medRxiv. https://doi.org/10.1101/2020.10.21.20216895.
飛沫シミュレーションの概要
・飛沫シミレーションは、以下の3つのモデルにより構成される。
基本アルゴリズムの概要
・飛沫シミレーションを構成する3つのモデルと気流の運動を表す基礎方程式(ナビエ・ストークス方程式)を組み合わせることにより、ウイルス飛沫の飛散・拡散経路を可視化する。