サマリー
1. オリンピックによる感染拡大をシナリオ推定
オリンピック開催に伴い、34万人の新たな人口流動が発生すると想定して感染拡大を推定した。東京都での従来型+N501Y変異種において,ワクチン接種を実測数と今後0.8%/dayで行い,6月21日に緊急事態宣言を解除した場合と、解除せずに緩和した規制を継続した場合、そして関係者全員がワクチン接種をした場合のシナリオ推定を行った。
2. 都内への来訪者が全日程で休日並みの15%の場合、感染者は300名増加
来訪者全員がワクチン接種する場合と比べて、都外からの来訪者が全日程で年末休日並みの15%(×34万人)の場合、感染者は270名増加し2800名程度*、重症者ピークも88名程度となった。オリンピック関連来訪者全員に100%ワクチン接種をした場合、80名程度感染者が減少した。これに対して、緊急事態宣言を全面解除せず緩和した規制(2021年1月の第2次緊急事態宣言相当)を継続した場合、感染者は最大800名程度、重症者ピーク30名程度に抑えられた。
3. デルタ株の拡大が最大のリスク
インド由来のデルタ株変異種が、6月1日に都内市中で10名存在した場合、8月末に17800人程度の新規陽性者の発生と重症者が490名となるリスクがある。これに対して、新規陽性者が700名を超えた時点で、第4次緊急事態宣言(1次と2次の緊急事態宣言の中間相当)を実施することで、感染者のピークは1300名程度*に抑制できる可能性がある。
これらは、2020年6月以降の東京都の感染状況をベースに試算しており、その当時の都民の緊迫した行動変容(外出自粛)や保健所・店舗による迅速なクラスター対策などが実施された状況を前提としている。また、オリンピックによる行動変容の緩みのリスクは考慮していない。
r1: 誤記訂正
r2: 都外からの移動リスク効果を改訂(未感染者、潜伏期間感染者を追加)
オリンピック開催の影響評価
• 6月21日緊急事態宣言解除
• 7月23日〜8月8日に34万人の人口流動が増加
• 設定1:オリンピック中止
• 設定2:オリンピック開催 ワクチン接種通常
• 設定3:オリンピック開催 関係者・観客ワクチン接種100%
• 開催(設定2)で270名増加、接種100%(設定3)で83名減少
赤:新規陽性者総数(15歳以上)
緑:新規陽性者数(15歳〜39歳)
青:新規陽性者数(40歳〜64歳)
紫:新規陽性者数(65歳〜)濃紫波線:重症者数
実線:実測数 波線:推定数
オリンピック開催の影響評価
• 6月21日緊急事態宣言を緩和して継続し、感染者500人で対策強化(2021年1月の2次宣言相当の強度)
• 7月23日〜8月8日に34万人の人口流動が増加(設定は同じ)
• 感染者のピークは800名程度
赤:新規陽性者総数(15歳以上)
緑:新規陽性者数(15歳〜39歳)
青:新規陽性者数(40歳〜64歳)
紫:新規陽性者数(65歳〜)濃紫波線:重症者数
実線:実測数 波線:推定数
デルタ株の影響評価
• 6月21日緊急事態宣言を解除
• 7月23日〜8月8日に34万人の人口流動が増加(設定は同じ)
• 6月1日時点で10名のデルタ株感染者が市中に存在と仮定
• 感染力はアルファ株の1.5倍、ワクチン効果は0.9倍と仮定
• 8月31日までの感染者のピークは17800名程度
赤:新規陽性者総数(15歳以上)
緑:新規陽性者数(15歳〜39歳)
青:新規陽性者数(40歳〜64歳)
紫:新規陽性者数(65歳〜)濃紫波線:重症者数
実線:実測数 波線:推定数
デルタ株の影響評価
• 6月21日緊急事態宣言を緩和後、感染者700名で緊急事態宣言(1次2次の中間程度の強度)発動し300名で解除
• 7月23日〜8月8日に34万人の人口流動が増加(設定は同じ)
• 6月1日時点で10名のデルタ株感染者が市中に存在と仮定
• 感染力はアルファ株の1.5倍、ワクチン効果は0.9倍と仮定
• 感染者のピークは1330名程度
赤:新規陽性者総数(15歳以上)
緑:新規陽性者数(15歳〜39歳)
青:新規陽性者数(40歳〜64歳)
紫:新規陽性者数(65歳〜)濃紫波線:重症者数
実線:実測数 波線:推定数
モデル設定
1. SEIR数理モデルとAI最適化手法による感染モデル
人口流動を考慮したSEIRモデルとAI技術(進化的最適化+準ニュートン法)を用いて感染モデル推定の最適化を行うことで、2.6名/日の精度で15歳〜39歳、40歳〜59歳、 65歳以上の3つの年代内および年代間での感染推定を行った。都外からの感染者流入推定値をモデルに組み込み、 2021年3月1日〜6月12日の感染者数からモデルを学習させた。重症者数は、過去6ヶ月のデータから統計モデルを構築し、それぞれの年代の感染者数推移から推定した。また,昨年の第1次緊急事態宣言解除と同等の都民の行動変容があったとして、昨年6月21日以降の実効再生産数と都内流動人口データを適用してシミュレーションを実施した*。
2. サーキットブレーカーの強度とワクチン接種効果を推定
アルファ株(従来株残存)とデルタ株を対象に、緊急事態宣言緩和の強度を第1次と第2次の緊急事態宣言の中間に設定した.また,デルタ株に対しては第1次緊急事態宣言の強度に設定した.
3. ワクチン効果設定
• デルタ株は,アルファ株に対して実効再生産数を50%アップさせるとした。
ワクチン効果は,アルファ株に対して、第1回で57%,第2回で94%の発症予防効果があるとし、デルタ株に対してはそれぞれ0.9倍とした。 3/1 – 6/12 の実効再生産数・人口流動数の推移は実測値を使用。6/13〜6/20は、直近の7日間移動平均Rtを使用し、6/21以降は2020/6/21以降と同等と仮定。ピーク後の減少は,感染拡大に伴う外出自粛などの住民の行動変容に起因するとした
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210610/k10013077751000.html
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000787862.pdf
• ワクチン接種速度の設定
3/5以降人口の0.05%(医療従事者1回目実測数)
3/27日後 0.032%, 0.033%(医療従事者1回目, 2回目実測数)
4/12以降 0.069%, 0.030%(医療従事者1回目, 2回目実測数)0.01% (高齢者1回目実測数)
5/4以降 0.064%, 0.078%(医療従事者1回目, 2回目実測数) 0.065%, 0.006%(高齢者1回目, 2回目実測数)
6/1以降 0.064%, 0.078%(医療従事者1回目, 2回目見込み) k/2%, 0.065% (高齢者1回目, 2回目見込み)
m/d以降 k/2%, k/2%(医療従事者1回目, 2回目見込み) k/2%, k/2% (高齢者1回目, 2回目見込み)
医療従事者2回目接種完了6/22, 高齢者2回目接種完了: k=0.5% 10/16, k=0.8% 9/2 , k=1.1% 8/14
モデルの感染者数は、都内で感染した人全員の数となっているため、都外からきて感染したのち、都外へ戻ってそこで陽性者にカウントされる人も含んでいる。
SEIR逆シミュレーションモデル
• 都内人口流動データを考慮したSEIRモデル
cp:感染者数, ur:スマホ利用率
• 進化的探索アルゴリズムと準ニュートン法を組み合わせた最適化手法で、実効再生産数Rtに基づいて変換した感染率bを生成するa, xを逆シミュレーション法で推定