家庭内接触感染モデル概要
1.外出から帰宅後の行動に伴うウイルス接触伝播の可視化
外出時に手に付着したウイルスが、帰宅者の行動によって自宅のさまざまなアイテムに伝播していく状態を再現するエージェントベースモデルを構築し、接触感染リスクおよび手洗い行動などの効果を可視化。
自宅療養中の家族がいた場合、複数人同時の感染リスク評価の拡張が可能(今回は実験対象外)。
2.使用データ
筑波大学・ライオン株式会社が調査した約1,100件の帰宅後行動調査から、場所、行動、接触物のデータを抽出し、動線確率、行動遷移確率、接触順番確率、行動回数分布、接触回数分布、停止条件などを作成。
ウイルス実験室での実験により、モデル皮膚と各素材間のウイルス伝播率を測定した素材伝播率表を作成。
3.家庭内接触感染リスク可視化エージェントベースモデル
代表的な間取りを設定し、作成した確率表に基づいて行動するエージェントが、家庭内接触行動を繰り返し実施し、付着したウイルス量から本人や同居者がウイルスに再接触するリスクを推定する。
ウイルス伝播モデル
・ウイルス伝播率
・乾燥状態ウイルス伝播率
・「汚染表面→肌(モデル皮膚)」「肌(モデル皮膚) →汚染表面」を表面材質ごとにインフルエンザウイルスで実験、算出
・表面材質
・ステンレス、ポリプロピレン、陶器、木材(化粧板)段ボール、壁紙、モデル皮膚、綿金巾
・接触物と材質
・呼び鈴(ポリプロピレン)、門扉(ステンレス)外出着(綿布)など207種
・肌接触面の割合は100%と仮定
・ウイルス伝播条件
・ウイルス半減期の設定
・接触時のウイルス伝播率と手の表面積から、接触物へのウイルス移動量を設定
行動動線モデル設定
・行動動線
・世帯構成、住宅形態(集合住宅、一戸建て)、間取り、パネル属性(20代女性など)で分類
・訪問場所(玄関、リビングなど)、訪問回数、訪問順序
・場所・接触物(鍵、ドアノブ、照明スイッチなど)
・訪問確率、条件付き動線確率、場所ごとの接触順番・接触数などを設定
接触感染リスク可視化システム
家庭内での生活者の接触行動に伴うウイルスの付着伝播を再現するシミュレーションを開発
実験概要
1.帰宅後の接触行動によるウイルス付着量の推定
・一般生活者の帰宅時の接触行動により、室内の様々なところにウイルスが付着する量を推定
・本人や同居家族がウイルスに再接触するリスクの解析
2.手洗い行動によるウイルス減少効果の推定
・帰宅後の手洗い行動データから、室内ウイルス残量の減少効果を推定
3.手洗い行動のタイミング効果の推定
・帰宅後の早いタイミングでの手洗いによる、室内ウイルス残量の減少効果を推定
4.手洗い方法の違いによる効果の推定
・水洗いとハンドソープ使用の効果の違いを推定
5.玄関での手指消毒効果の推定
・帰宅時に玄関で手指の消毒を行うことによる、室内ウイルス残量の減少効果を推定
6.玄関での手指消毒と手洗いの組み合わせ効果の推定
・帰宅時に玄関での手指消毒および手洗いをすることによる、室内ウイルス残量の減少効果を推定
帰宅後の接触行動によるウイルス付着量の推定
初期ウイルス量:106 copies手洗いによるウイルス減少係数:1/10,000
帰宅時行動を1,000回試行したときのウイルス残存量
一般生活者の帰宅時の平均的な接触行動により、室内の様々なところにウイルスが付着することが判明
<本人や同居家族がウイルスに再接触する可能性が高い>
補足)再接触感染リスクとウイルス拡散リスク
黒:ウイルスが付着したモノに再接触した際の感染リスク (1,000回試行時の接触出現数に対する平均ウイルス付着量)
グレー:家庭内行動のウイルス拡散リスク (1000回試行に対する平均ウイルス付着量)
手洗い行動によるウイルス付着量の推定
初期ウイルス量:106 copies手洗いによるウイルス減少係数:1/10,000
手洗い群(852データ)と手洗い無し群(148データ)の比較
手洗い実施によるウイルス拡散分布の変化
手洗い行動により手指のウイルスは減少するが(右端)、手洗い前の様々な接触でウイルス拡散抑制効果は低い
<通常の手洗い行動では、室内のウイルス拡散を防ぐことは難しい>
早期の手洗い行動によるウイルス付着量の推定
初期ウイルス量:106 copies手洗いによるウイルス減少係数:1/10,000手洗い群(852データ) から、15回以下接触で手洗いを行う群 (363データ)を抽出し比較
手洗いタイミングの考察
手洗いを早めに行うことの効果を比較解析する。
シミュレーション結果の最頻値:12回、中央値:17回、→15回を境とした解析を実施
手洗いのタイミングによるウイルス拡散分布
帰宅時の手洗いタイミングを早めることで、ウイルスが付着する接触物が減少する(橙色データ)
<早めの手洗いをすることで、ウイルスの拡散範囲を減少することができる>
手洗い方法の違いによるウイルス付着量の推定
初期ウイルス量:106 copies・水洗いによるウイルス減少係数:1/100
・ハンドソープによるウイルス減少係数:1/10,00015接触以内で手洗いした群(363データ)での手洗い行動の比較
引用文献)
手洗いによるウイルス除去効果:森功次ら, 感染症誌 80:496~500,2006
2) 水洗いとハンドソープ使用の効果の違い
ウイルス減少が低い手洗いの場合(青)、ウイルス付着量は増加する(〇のエリア)
<石鹸やハンドソープなどのウイルス除去効果のある手洗いの実施が重要>
2) 水洗いとハンドソープ使用の効果の違い
初期ウイルス量:106 copies消毒によるウイルス減少係数:1/10,000
手洗いによるウイルス減少係数:1/10,000手洗い群(852データ)と玄関での手指消毒のみ群(144データ)を抽出し比較
引用文献)
手洗いによるウイルス除去効果:森功次ら, 感染症誌 80:496~500,2006
消毒剤によるウイルス減少効果: G. Kampf et al. Journal of Hospital Infection 104, 2020
玄関消毒のみの効果
玄関付近での手指消毒(薄緑)は、接触箇所のウイルス付着量が少なくなるが、手指には一定数残っている(右端)
その後の活動で、少しずつウイルスを拡散したり、自身がウイルスを体内に入れる可能性もある
<玄関での手指消毒だけでは、不十分>
玄関での手指消毒と手洗いによるウイルス付着量の推定
初期ウイルス量:106 copies消毒によるウイルス減少係数、手洗いによるウイルス減少係数:1/10,000
・手洗い群(852データ)
・15接触以内で手洗いした群(363データ)・玄関で手指消毒後、15回接触以内で手洗いをした群(218データ) を抽出し比較
引用文献)
手洗いによるウイルス除去効果:森功次ら, 感染症誌 80:496~500,2006
消毒剤によるウイルス減少効果: G. Kampf et al. Journal of Hospital Infection 104, 2020
1) 衛生行動の組み合わせと実施タイミング違いによるウイルス拡散分布の変化
手洗い前に行きがちなキッチンやリビングのウイルスの付着も低減
<玄関での手指消毒と早めの手洗いの組み合わせにより、室内のウイルス分布範囲は更に減少>
まとめ
1.帰宅後の接触行動によるウイルス付着量を推定した。
・帰宅時の接触行動から室内の様々なところにウイルスが付着する
2.本人や同居家族がウイルスに再接触するリスクが高い
・通常の手洗い行動によるウイルス減少効果は低い
3.手洗い前に様々な接触行動が生じるため
4.帰宅後の早期の手洗いによって、室内ウイルス残量を減少できる
5.ハンドソープによる手洗い効果は高い
6.玄関での手指消毒効果は更に高いが、手指には一定数残存する
7.玄関での手指消毒と早期の手洗いの組み合わせ効果が最も高く、加えて、玄関周りや携帯品の消毒の実施が示唆される