サマリー
・第7波において東京都で取られている①濃厚接触者対策、及び②検査体制
➀濃厚接触者は、最終接触日から5日間行動自粛(2-3日目に抗原検査で陰性ならば自粛解除)
➁検査はPCR検査を活用
・本分析では、エージェント・ベース・モデルを用いた反実仮想実験により、上記対策を評価
➀ 濃厚接触者の追跡・隔離は、感染拡大の防止に効果がある
・ただし、効果の程度は他のパラメータ設定に依存する
・一例として、有症者検査率が低ければ、追跡を一切行わなくても感染動向への影響は小さい
・行動自粛している濃厚接触者はピーク時で10万人
・仮に、濃厚接触者の追跡を強めれば、行動自粛する濃厚接触者の数は40~50万人程度にも増加する
➁ 抗原検査によるPCR検査の代替は、感染拡大の防止に効果がある
・結果が即日で判明する(早期隔離の)メリットが、感度の低さのデメリットを上回る
・ただし、効果の程度は他のパラメータ設定に依存する
・有症者検査率が低ければ、抗体検査による代替による効果は小さくなる
モデルの概要
・東京都を対象としたエージェント・ベース・モデル
・個人の属性:年齢・性別・産業・職業・外食頻度
・対人接触する場面:家庭、学校、職場、高齢者施設、飲食店、その他
・個人の感染確率は、年齢・接触場面・ワクチン接種状況によって決定
・Chiba, Asako. 2021. "The effectiveness of mobility control, shortening of restaurants' opening hours, and working from home on control of COVID-19 spread in Japan" Health & Place 70: 102622.
・Chiba, Asako. 2021. "Modeling the effects of contact-tracing apps on the spread of the coronavirus disease: Mechanisms, conditions, and efficiency" PLoS ONE 16(9): e0256151.
・参考 Kerr et al. (2020)
『ベースライン』シナリオと比較シナリオ
・第7波で取られている対策を『ベースライン』シナリオで再現
・➀濃厚接触者の追跡・行動自粛と②検査について、反実仮想のシナリオを設定
『ベースライン』シナリオ
第7波発生~現在に至るまでの対策を再現
<検査>
・有症者の一定割合※がPCRまたは抗原検査を受診(※本分析では、70%の場合と30%の場合を計算)
・検査の感度は70%
・受診後、2日後に結果通知 → 陽性者は回復するまで隔離
・隔離期間中は、一切の接触が絶たれる
<濃厚接触者の追跡・自宅待機>
・濃厚接触者(陽性者の家族、及び高齢者施設での同居者)は直ちに自宅待機
・自宅待機期間は、2日
・自宅待機期間中は、家庭と高齢者施設における接触は平時と同様に、それ以外での接触は平時比90%減少する
・実施率は80%
(参考)東京都における濃厚接触者の扱い
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/tamafuchu/shingata_corona/corona_sesshoku.html
陽性者との最終接触日を0日として5日間(6日目に解除)が原則。
2日目及び3日目に抗原定性検査により陰性が確認された場合は、3日目から待機解除することが可能。
『追跡強化』シナリオ
仮に、同居者以外を含めて濃厚接触者を積極的に追跡していた場合(第6波以前)
<検査>
・有症者の一定割合※がPCRまはた抗原検査を受診(※70% または 30%)
・検査の感度は70%
・受診後、2日後に結果通知 → 陽性者は回復するまで隔離
・隔離期間中は、一切の接触が絶たれる
<濃厚接触者の追跡・自宅待機>
・濃厚接触者の追跡:陽性者について、過去3日間の濃厚接触者の接触を調査
・追跡作業の所要日数は、1日
・濃厚接触者を特定できる確率は、家庭・高齢者施設で90%、学校・職場で70%、その他で30%
・特定された濃厚接触者は、隔離に入る
・隔離期間は、2日
・自宅待機期間中は、家庭と高齢者施設における接触は平時と同様に、それ以外での接触は平時比90%減少
『ベースライン(抗原検査)』シナリオ
仮に、抗原検査のみを実施していた場合
(感度は低いものの、結果が当日に判明する)
<検査>
・有症者の一定割合※が抗原検査を受診(※70% または 30%)
・検査の感度は50%
・受診後、当日中に結果通知 → 陽性者は翌日から回復するまで隔離
・隔離期間中は、一切の接触が絶たれる
<濃厚接触者の追跡・自宅待機>
・ベースラインと同内容