研究開発担当
産業技術総合研究所 原史朗
対応するリサーチクエッション
「接触機会低減」のための「ICT、IoTの活用」(ウェアラブル機器を用いて接触回避などを行う)
非接触技術等を用いた対策:CO2濃度の計測値に基づく換気状況の測定
課題:
3つの感染経路である媒介、近接飛沫、浮遊微粒子のうち、浮遊微粒子については、どのくらい換気すればよいのかがわかっていない。
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対策:
人の呼気に含まれる二酸化炭素(CO2)濃度を室内で測り、CO2濃度が高くならないように換気する。
→本研究では、各シーン(オフィス、カラオケ等)でのCO2濃度を測定して、換気の目安を見出す。
窓のある会議室でのCO2測定
- 人が増えるとCO2も増える。
- 窓開け換気すると、5分でCO2濃度が大きく低下する。
- 700ppmくらいまでは、「比較的空気は良い」と感じられる。1,000ppmを越えると、「この部屋は空気が悪いな」と感じ始める。
※ 人によって空気の悪さの感じやすさはかなり違う。1,000ppmは別の実験結果。 - 外気のCO2濃度は、約415ppm。
- 窓と廊下を少し開けて換気を続けると、16人いても500ppmという非常に低濃度で安定。
→機械換気の良いオフィスでは、ソーシャルディスタンスに配慮した(人が密集していない)会議室では、CO2濃度は1,000ppm以下に抑制可能。逆に、機械換気が良くできていないところでは、窓開け換気が効果的。
窓のないオフィスビル会議室でのCO2測定(40m2で8名会議)
- 空調(機械換気)を止めると、CO2濃度は際限なくどんどん上昇する(=空気が悪くなる一方)。
- 空調を入れると、30分ほどで1,000ppm以下で一定になる。ただし、1,000ppmに抑えるのには、人の密度は通常の半分くらい(一席飛ばし, 本例では40m2で8名)が妥当。
※室内エアコンは、単に空気を室内で回しているだけで、空気の入れ替え効果は全く無いので注意。あくまで、ビルの外から空気を送り込まないと、CO2濃度は際限なく増加する。
本実験では、三密を防ぐために、会議参加者を模した1名以外の7名分は、CO2発生器で7名分相当のCO2を放出して計測。
会議室サイズ:8.7m x 4.6m x h2.7m
→平日の会議では、一席飛ばしで半分くらいの密度で会議をやるとよい。休日の会議などでは、ビル空調をきちんと効かせること。または、30分以内で会議を終わりにするとよい。
広いオフィスフロアでのCO2測定(3,000m2で214席に対して、110名程度着座勤務)
- 机を目一杯おいている旧来のオフィススタイルでは、1名一坪程度(3.3m2)になると、1,000ppmを超える可能性がある。このような古いタイプまたはぎゅう詰めオフィスでは、間引き勤務か、ビルへの空気取り込み量を2~3倍にするなどの対策が必要。本例は、比較的広めのオフィススタイル(15m2/人)に、テレワーク等を組み合わせた間引き出勤の実例で、1,000ppmに十分収まっている。
- 近年推奨されている1名8m2程度の広めのオフィス(ただし、デスク周りは机が密集しているので、昔とさほど変わりないが、通路や共用スペースを広く取るのが最近の傾向)では、換気の観点では、1,000ppmを水準をクリアできると推定される。
→広いオフィスフロアでは、一人8m2程度のレイアウトとするか、出勤を半分にすると空気を良好に保てる。
デイケアサービスでのCO2測定
- 常時換気で、14人程度でも700ppm以下に抑えられる。
- 1時間毎に5分の間欠換気で、1,500ppm以下に抑えられる。
- 30分ごとに5分の間欠換気が推奨される。
- お茶の時間に皆でおしゃべりに花を咲かせると、急激にCO2濃度が上昇する。(なるべくだまってマシンを使うのが良い)
- デイケアサービスで10名以上がいても、状況に応じた窓開け換気で、良好な換気を実現できる。
★逆に、定期的な窓開け換気を行わないと、空気質(CO2濃度)はどんどん悪化する。
→窓開け換気は極めて換気効果が高い。1時間に5分で濃度上昇を防ぐ。30分に5分なら万全。真冬は暖房の強化と換気の併用が望ましい。
カラオケルームでのCO2測定(定員8名で3名入室、1名だけ常に歌うケース)
- 熱唱系楽曲では、しっとり歌う場合と比べエネルギーも倍使い、CO2発生量も倍になる。
- しっとり系楽曲では、エネルギーも少なく、大声系に比べてCO2発生量も小さい。
- 定員8名の小さな部屋(3m x 2.5m x 高2.1m)に3名程度なら、空気の悪化は15分程度で止まり、その後は1,000ppm以下で一定。仮に定員で歌うと、およそ2,000ppmまで上昇することになる。
- カラオケでは、構造上も騒音上も窓開け換気はできないので、少人数で静かに歌うとよい
(小声で歌って、マイクボリュームを大きくすれば気分も良い)
→大きな声で歌うと息から出るCO2濃度が増える。小さな声で、静かに歌うと良い。同席者は、心のなかで歌うとよい。小部屋では、定員の4割程度までなら1,000ppm以下で収まる。大声で全員絶唱は勧められない。
大食堂でのCO2測定
- 大食堂は、現在のコロナでのテレワークや三密を避ける取り組みのため、昼食時の人数が従来の半分以下の100名前後になっている。そのため、CO2濃度については、問題のない水準に落ち着いている。
- ただし、食堂、レストランは様々な形式があるので、ひとくくりの議論はできない。適宜、CO2センサなどで、換気具合を測定すべきである。
- 本例のように、厨房が隣り合わせになっているケースがあり、煮炊きをする朝方は、人以外の調理でのCO2発生が顕著である。
→煮炊きのある場所については、外の400ppm程度に下がる条件を確認するなどして、人の人数に応じたその上乗せ分だけを計測するようにすること。
エクササイズのCO2測定
- 運動量とCO2発生量が比例することは広く知られている。本実験では、それを確認(右図)。
- 運動量は通常METsという単位で、多くの仕事について計測されており、以下の式で消費カロリーを算出可能。METs =1は静かにしている状態。
消費カロリー(kcal) = METs × 体重(kg) × 時間(hour) × 1.05
すなわち、おおよそのCO2発生レートは算出できる。デスクワーク実験から算出すると、次のようになる。
CO2レート= 0.253L/(min・人) [成人男子の本実験の場合]
∴ CO2レート(L/min) ~ 0.0044 × METs × 体重(kg)
→運動量とCO2発生量は比例する。激しい運動ほど、換気を強化する必要がある。
住宅でのCO2測定
- 24時間換気対応換気口を備えた個人住宅では、寝室に2名で就寝すると、朝には1,000ppmを超えるようになる。ただし、その値が直に不健康を意味するわけではない。
- 換気口を掃除すると、CO2の排出効果が促進される。本例では、昨年度末の大掃除から11ケ月経過後に換気口の掃除を実施したところ、換気効率は、1割程度回復。
- 朝起床後などに適宜窓を開けると、5分でCO2濃度は半減する。
- 基本的に、各部屋は【空気の屋外排出】の向きにファンが取り付けられており、他の部屋とは空気の流れでは独立である。しかし、リビング、ダイニング、廊下は気流の上流側であり、感染者が出た場合感染者との動線が交差しないように注意が必要。
→個人宅では、排気口の掃除が有効。また、各部屋のファンの向きで気流の方向が推定できる。
わかったこと
- 人の呼気からのCO2吐出
- CO2発生量は、ほぼ人のカロリー消費量(おおよそ運動量)に比例する。
- 大きな声を出すと、カロリー消費量が増えて、CO2発生量も多くなる。
- 換気
- 窓開け(できれば空気の出入りとして2ケ所以上)は非常に有効。風の殆どない穏やかな日和でもオフィスの機械換気量の2~3倍以上、個人宅通常換気量の20~30倍の換気量に相当。
- 間欠換気は、窓の開閉管理が行き届けば、かなり効果的。
- 窓のないビルでは、部屋の空調を回すかどうかではなく、外気取り込み量が重要。つまり、ビル全体の管理が重要。外気取り込みを増やすと、温調電力が増えるが、それで換気を促進できる。対策として非常に有効。
- ほとんどのケースで、それぞれの部屋の換気量がわからない。それを補うために、CO2センサを用いて、1,000ppm以下になるように、人数と行動、それに換気管理を行えば、部屋の換気量を知る必要はない。
- CO2発生と換気のバランス
→ほとんどのシーン(オフィス、ケアハウス、カラオケ、...)で、人の行動と換気管理が行き届けば、1,000ppm以下に抑えつつけることは可能。
各シーンのエネルギー消費量、CO2発生量、対策の目安
→コロナ禍では、実際に行われている改善は、利用者の自主的回避も手伝って、平均的には上記表に近いので比較的適切。しかし、個別事例で異なる(混雑しているとき等、上記水準から大きく外れたケースでは換気効率が悪いということもある)ので、CO2センサでの実測で、1,000ppmに抑制するとよい。
まとめ
- CO2測定で、どのような人数でも、換気状況が明快にわかる。
- 典型的なそれぞれのシーンにおいて、本研究結果で示された換気対策を施すことで、CO2濃度を建築基準法で定める1,000ppmに抑える運営が可能。
- ただし、個別事例で部屋の換気性能はまちまち。より安全に換気対策を施すには、CO2センサーを用いて、常時測定することで、数値に基づく換気の運営が可能になり、間欠換気などを適切に実施できる。
- 換気程度がわからない場合でも、冬はその分暖房を強めるなどして、少しでも多く窓を開けるなどして外気取り込みを多くすることが効果的。
- CO2測定は、あくまで浮遊微粒子の換気状況を明らかにするもの。近接飛沫対策(マスク、衝立、ソーシャルディスタンス)と媒介対策(手洗い、消毒)は併せて必ず行わなければならない。
換気対策のまとめ
- 換気を良くするために、CO2センサでCO2濃度を測ると良い。
- CO2濃度は建築基準法で定める1,000 ppm以下に抑えると良い。
- CO2濃度1,000 ppm以下に抑えるように、主に次の対策を施すと良い。
- [1]窓を開ける
- [2] 汚れた空気を排出するために、全館空調の空気取り込み量をupする。
- [3] 人密度を減らす
補足:従来の換気、CO2基準と三密対策CO2基準
- 家庭:建築基準法で、2時間に1度空気を入れ換える(名目換気回数0.5回/h)にすること。
- ビル:建築基準法、建築物衛生法、労働安全衛生法に基づく事務所衛生基準規則で、CO2濃度を1,000ppmに抑えること。
- 学校:学校環境衛生基準(学校保健安全法)で、CO2発生を1,500ppmに抑えること。
→これらの基準は人体への影響を総合的に考慮した空気質基準であって、三密の観点からはこれらの基準でもコロナ感染があることを鑑みると、「CO2濃度 x 滞在時間」で管理すべきと思われる。