研究開発担当
兵庫県立大学大学院シミュレーション学研究科 井上寛康
対応するリサーチクエッション
「第二波対策」として必要な「感染予測・対策の効果検証」(SIRモデルの代替となるモデルの確立)、「必要な医療リソース(病床・医療物資等)の需要予測と最適配置」
サプライチェーンデータ
- 東京商工リサーチによる(経済産業研究所からの貸与)
- 日本の企業をほぼ網羅している
- 取引先関係が把握されている
- 2006-2018年の各年のデータがある
- 2016年データではたとえば1,668,567社5,943,072取引関係
サプライチェーンモデル
価格・市場はない
ショック前の生産水準をできるだけ保つ
自粛前の生産や需要の量が
最初に与えられている
モデルにおける被害の広がり方
モデルの制限
※ 国際的な影響は考慮していない(現在取り組み中)
※ 住所の情報は本社のみ(現在事業所データを取り込み中)
モデルパラメータの調整:東日本大震災による
4・5月に行われた自粛時のシミュレーション
青の線は自粛エリアは実際の都道府県,自粛の内容は世界基準(産業ごと,次ページ参照)(Guan et al. 2020 and Bonadio 2020)
縦軸は総付加価値額(GDP)・横軸は日数
青の線は世界基準
赤線は全産業活動指数4・5月に基づくGDPの推定,ピンクの領域は推定減少額
緑の線は上記の世界基準において同じ係数を掛けてピンクの領域と緑の線の減少額が一致するようにシミュレートしたもの
緑の線は世界基準の自粛(青)より65%緩い企業の生産活動減少を与えている
したがって,日本のCOVID-19の封じ込めは経済的に世界基準より35%効率よく行われた
自粛の世界的基準
自粛の強さは企業の生産力の低下で与える(自粛で十分な労働力が確保できないため)
しかし実際にどれほど生産力が低下したかを直接知る国内データはないため世界的な調査からとる(Guan et al. 2020 and Bonadio 2020)
たとえば,下のAgricultureではwork-at-home rateが0.134で,感染防止策で労働力が0.1減少することを考慮し,(1-0.134)*0.1 = 0.0866となっている.
当該産業に属する企業は一律この値で生産力が減少するとする.
1都道府県を自粛した場合,他の都道府県にどのような影響が及ぶか
前頁までに求まった日本の自粛の実際に則して,1都道府県で2週間自粛を行った場合に他の都道府県にどれだけ経済活動の低下が見込まれるかを推計した
上図は左から,1. 宿泊・娯楽・百貨店・モールを自粛、2. 1+外食を自粛、3. 2+他のサービス業を自粛,4. 全産業を自粛
行方向はJIS Code順(北海道から)に自粛する都道府県.列方向はJIS Code順に各都道府県の影響.
赤ほど強い低下,青は影響小(GRP損失 / 平時GRP)
どの都道府県を閉じても大きなGRPを持つ都道府県への影響がGRPの割合として大きくなる
前頁同様のシミュレーションを今度は全産業自粛とし,左から,1, 2, 3, 4週間続けたもの.
全産業への自粛(すなわち実際に行われた/行われるであろう自粛)は1週間でもすでに大きな影響を与え,期間が長くなる差はそれほどではない
cf. 前頁では自粛産業を広げる差が大きい(色の違いが大きい)
都道府県1つだけ自粛解除するメリット
全国は自粛したままで、1つの都道府県を解除したときのその県の経済的改善を見た
GRP改善率 = 改善した GRP (Lift) / 自粛時 GRP
(GRP: Gross Regional Product)
1. GRPが大きい県は、改善率が高い
2. GRPが小さい県は、改善率に非常に幅がある
→ 次ページ以降で詳細
代替性が高い県はGRP改善率が高い
サプライヤが同じセクターの場合代替性があると仮定(190セクター)
県外サプライヤが県内サプライヤで代替できる割合(Substitutability)を算出
県内企業で高い代替性があればその県の改善率高い
(青・赤・黒点はGRP上位・中位・下位)
(都道府県のGRPなどはコントロール済み)
Helmholtz-Hodge Decomposition
ネットワークをポテンシャルフローとループフローに分ける
ポテンシャル・ループとGRP改善率との関係
ループフローが強い県は自粛解除のメリット大
→ 独立した経済を持っており, 外の負の影響に抵抗
ポテンシャルが低い県は自粛解除のメリット大
→ 短期的負の効果の波及では、需要減少は即座に浸透するが,供給減少は在庫のバッファがあるため遅れることが原因
(青・赤・黒点はGRP上位・中位・下位)
(都道府県のGRPなどはコントロール済み)
他の都道府県と同時に自粛解除するメリット
ある都道府県が他の1つの都道府県と同時に自粛解除するとどれだけメリットがあるかを見た
GRP改善割合 =2県解除時改善したGRP / 単独で解除改善したGRP
(GRP: Gross Regional Product)
一緒に解除してメリットがあるのはGRPの大きい県であり、常識的に想像されるような隣接県等、他の効果はかなり小さい
(青・赤・黒点はGRP上位・中位・下位)
(都道府県のGRPなどはコントロール済み)
(a) 当該都道府県aから一緒に解除する都道府県bへのポテンシャル流れがあると正の相関
(b) 上記の逆の流れも正の相関
(c) 都道府県a,b間のループフローは正の相関
(d) 当該都道府県aのサプライヤが都道府県bによる代替性があると正の相関