2021.02.10
COVID-19感染予防対策に伴う経済的影響に関するシミュレーション #2
研究開発担当
兵庫県立大学大学院シミュレーション学研究科 井上寛康
対応するリサーチクエッション
「第二波対策」として必要な「感染予測・対策の効果検証」(SIRモデルの代替となるモデルの確立)、「必要な医療リソース(病床・医療物資等)の需要予測と最適配置」
背景と目的
- COVID-19に伴う経済活動の制限により人や物の流れが滞り、結果としてサプライチェーンの途絶が起きた
- その途絶が起きた企業のみならず、サプライチェーン上に波及的な影響を引き起こすため、どれだけの影響が起きるかの推計は重要である
- しかしながら従来経済学で主流の2つのアプローチでは不十分である
・産業連関表:産業間の取引額による計算は需要の増減は議論できるが、供給の増減は議論できない
・一般均衡モデル:すべての企業が同質であるという強い前提があるが、現実のサプライチェーンはすべての企業にとって取引相手が異なるという完全な異質性を持つ
- そこで本プロジェクトでは、実際のサプライチェーンデータ上でCOVID-19の経済的ショックが波及する様子をシミュレートする
サプライチェーンデータ
- 東京商工リサーチによる(経済産業研究所からの貸与)
- 日本の企業をほぼ網羅している
- 取引先関係が把握されている
- 2016年データでは1,668,567社5,943,072取引関係
それぞれの点は企業、サイズは取引先リンクの数、色は産業種別を表す。リンクは可読性のために描画されていないが、リンクがある点同士は近くに配置されている。また、その方向は下から上に財が流れるように配置されている。逆は金の流れである。(出典:Y. Fujita, et al., EIER, 2016)
サプライチェーンモデル
価格・市場はない
ショック前の生産水準をできるだけ保つ
自粛前の生産や需要の量が最初に与えられている
4・5月に行われた自粛を用いたシミュレーターの調整
自粛エリアやタイミングは実際の都道府県を用い自粛の強さを調整した結果のグラフ
縦軸は一日ごと総付加価値額(GDP)
横軸は日数。
赤線は全産業活動指数4・5月に基づくGDPの推定,ピンクの領域は推定減少額。全産業活動指数は全産業の生産活動状況を供給面から捉えることを目的とした経済産業省による指標。
自粛の強さは産業ごとにどれだけ生産が押し下げられたかで決められる。ここでは、産業ごとの生産量低下の世界的ベンチマークGuan et al., Nature Human Behavior, 2020に、自宅で作業できる割合Bonadio et al., NBER, 2020 をかけたものを用いている。
緑の線はピンクの領域と緑の線の減少額が一致するように基準を調整したもの。その調整では、上記の自粛強度に一律でかける係数の値を調整した。この調整では世界基準の32.3%の自粛強度が日本では行われたと算出されている。
現在の緊急事態宣言を短縮・延長する場合
縦軸は日ごとのGDP損失
日ごとの損失は増加していく
現在の緊急事態宣言を地域を限定して短縮・延長する場合
東京だけで全地域と比べて半分以上の損失