外部から感染者が流入するSEIRモデル
各状態(未免疫S/潜伏期E/感染力獲得I/回復R)に流入・流出のある拡張型のSEIRモデル。しかし、旅行者と現地の人の状態の差は考慮できない。
地域内・地域外で流入・流出があるSEIR回路格子モデル
(Ohsawa & Hayashi 2021 https://arxiv.org/abs/2104.09719)
ポイント① どの状態にある人の移動も、行先の感染拡大に影響をもたらす可能性を考慮。かつ、旅行者と現地の人の状態の差を考慮することのできるSEIR回路格子モデルを開発した。
※初期における移動元のS/E/I/R比率を移動先のS/E/I/Rとした場合の結果だが、より実際に近い再設定でも以下の傾向は変わらない。
ポイント③ ワクチン接種速度が迅速化すると、越県移動リスクは著しく低減する(ポイント② の条件を守れば、人口の0.4%/日となるのを境目に感染拡大抑制に転じる効果を発見)
Q & A
Q1: 流入者が増えると感染者数は増える筈ではないのか?
A: それは既成観念にすぎません。ワクチンを接種し感染者比率の低い集団が流入するため感染者増加数が「薄まることもある」という効果(a;渡航側、b:受け側、無免疫者数S,、潜伏期間の人数E,、感染者数I,、人口Nとすると、 Eの増加率はRt Sa Ib / NaではなくRt Sa Ib /(Na+Na→b)としなければ意味が通らない)を見落としたモデルは誤差を蓄積し、感染者数が実際よりも増える結果を見てしまう。 ワクチン接種速度pv >0.4%/dayでは「薄まる」でなく「薄まることもある」なので流入者が増えると感染者数が減るという傾向は有意とはいえない(p>0.2)。pv <0.4%/dayでの「流入者が増えると感染者数が増える」(p>0.05)に比べると弱い相関といえる。
Q2: 海外からの人が増えることと、県境移動は同じ扱いでモデル化しているのか?
A: これも違います。県境移動者は移動したら約2.3日で戻るという設定であり、国内の全人口の内数なのでここでいう累積感染者の母数に入っている。いっぽう、海外からの渡航者は約3週間は滞在し、帰国したら我が国から外に出るため累積感染者に含めていない。これらのことは、初期値の与え方や集計方法の差として表れている。
Q3:この結果の実用的な意義は何か?
A:ワクチン接種速度が低い段階では接種重点地域のRtの平均値を, それより早まると条件付きエントロピーHcを最大化することによって、同じ量のワクチンでも格段に感染拡大を抑えることができる。特に、 Hcは人口分布が分かれば容易に計算できる。 Rtの予測はHcの見積もりよりは難しい。
A: ワクチンの接種速度pvが速まれば、越県移動を含む経済活動を活性化させることができることを示したことになるため、政策策定の方程式「国民の適切な行動=f(pv)」を頭に叩き込むことができる。