シミュレーションについて
■当シミュレーションではSIRDモデルに経済活動を組み込み、感染症の拡大リスクと経済損失を同時に分析する。
■シミュレーションには下記のパラメータ及び予測値を使用。モデルに当てはめる前にパラメータ群を推計している。
■パラメータ
・人流とGDPの関係
・デルタ型変異株割合(陽性者のうちのデルタ株感染者の割合)
・重症化率(陽性者のうちの重症化者数の割合)
・死亡率(陽性者のうちの死亡者数の割合)
・入院率(陽性者のうちの入院率数の割合)
■予測値
・1日あたりの新規感染者数の増減の経過(月曜日から日曜日までの感染者数の平均人数)
・1日あたりのワクチン接種本数
■モデル詳細
Fujii and Nakata , “Covid-19 and Output in Japan",
https://covid19outputjapan.github.io/JP/files/FujiiNakata_Covid19.pdf
分析
■東京都で、ロックダウン並みの厳しい社会経済活動制限をすることの感染・経済への影響を定量分析
■8月30日からロックダウン開始と仮定
■第1次緊急事態宣言並みの人流・経済活動低下をもたらすと仮定
■重症病床数(都基準・国基準)が両方とも現在の確保病床数の80%・50%になった際にロックダウン解除と仮定
■解除後、6か月かけて段階的に人流・経済活動をコロナ危機前のレベルに回復させると仮定
■ロックダウン解除直後の人流増加は宣言解除直後の人流増加よりも多少高めに設定
■ロックダウン解除後に、少ない新規感染者数と重症患者数が継続することによる心理的な影響を考慮
→上記前提を元に、p.2に記載したモデルに当てはめ、ロックダウンを行う場合の感染・経済への影響について分析(比較対象として、ロックダウンを行わないシナリオについても記載)
※重症患者の基準
・都基準:人工呼吸管理またはECMOを使用している患者
・国基準: 集中治療室(ICU)等での管理、人工呼吸器管理又は体外式心肺補助(ECMO)による管理が必要な患者
■結果
■ロックダウン解除は10月第2週(80%ケース)・11月第2週(50%ケース)
■基本シナリオ(ロックダウン無し・10月中旬緊急事態宣言解除・医療体制強化)と比べると…
■累計死者数は80%ケースで約100人増加、50%ケースで約100人減少
→ワクチンの接種が進むことにより、大きな増減はない。
■経済損失は今後1年で約1.5兆円増加(80%ケース)・約2.5兆円増加(50%ケース)
(今後1年間:東京都の年間GDPは約100兆円)
■重要ポイント
■ロックダウンは経済的にコストが高い
■累計死者数が増えるか減るかは、ロックダウン解除後の人々の行動に依存する
■ロックダウンは次の感染の波を2-4か月遅らせることが出来る可能性がある
■次の感染の波はロックダウンをしなかった場合よりも大きくなる
■感染によって免疫を獲得する人が相対的に少ない中で、次の感染の波がくるから
基本シナリオ(ロックダウン無し・10月宣言解除・解除時1日新規感染者数約4000人)
Note 1:細い線は接触率パラメター・致死率・重症化率・入院率パラメターの楽観・悲観ケース
Note 2:死者数は、医療体制強化により全ての患者に適切な対応がなされた場合の死者数であり、そうでない場合には大幅に増加する可能性がある
ロックダウンシナリオ:重症病床使用率8割で解除
Note 1:細い線は接触率パラメター・致死率・重症化率・入院率パラメターの楽観・悲観ケース
Note 2:死者数は、医療体制強化により全ての患者に適切な対応がなされた場合の死者数であり、そうでない場合には大幅に増加する可能性がある
ロックダウンシナリオ:重症病床使用率5割で解除
Note 1:細い線は接触率パラメター・致死率・重症化率・入院率パラメターの楽観・悲観ケース
Note 2:死者数は、医療体制強化により全ての患者に適切な対応がなされた場合の死者数であり、そうでない場合には大幅に増加する可能性がある
詳細
■Fujii and Nakata (2021): Covid-19 and Output in Japan
■https://covid19outputjapan.github.io/JP/, https://covid19outputjapan.github.io/JP/resources.html
■緊急事態宣言・ロックダウン解除後、6か月かけて人流・経済活動をコロナ危機前のレベルに回復と仮定
■左(右)の黒の縦実線が現在時点(9月第5週)。二つの細い線は接触率パラメターの定常値の楽観・悲観ケース
■Bottom-rightパネルは、1年後の累計死亡者数(これまでの死亡者数を含む)と今後1年間の経済損失。Middle-rightパネルはその地域における月次GDP(近い将来公表する論文で推定方法の詳細を説明します)。
■アルファ型変異株感染力が従来株の1.3倍、重症化率・致死率は1.4倍と仮定。デルタ型変異株の感染力はアルファ型変異株の1.5倍、重症化率・致死率はアルファ株の1.1倍と仮定。デルタ型変異株割合は、現在9割と仮定
■医療逼迫による致死率増加はここでは考慮されていない
■季節性考慮で冬のピークは接触率パラメターが定常値の1.1倍、夏のTroughには0.9倍
■ワクチン接種ペース見通しは8月末まで1日120万本(全国換算、このうち高齢者は70万本)、その後徐々に低下していくと仮定。ワクチン接種希望者は高齢者が90%・高齢者以外は7割と仮定(15歳以上の希望者が8割と仮定で、15歳未満は未接種と仮定)。ワクチンの効果は「SPI-M-O: Summary of further modelling of easing restrictions – Roadmap Step 4, 9 July 2021」と整合的。モデルの詳細についてはFujii and Nakata(2021)を参照して下さい