- HOME
- 研究結果報告
- 感染拡大・抑制シミュレーション
- ワクチン接種完了後の世界:コロナ感染と経済の長期見通し #2
ワクチン接種完了後の世界:コロナ感染と経済の長期見通し #2
- 公開日
- 2021.09.14
- 研究者
- 仲田泰祐
- 機 関
- 東京大学大学院経済学研究科
/
-
東京大学大学院経済学研究科
はじめに
コロナ感染の見通しは、短期的にも非常に不確実
コロナ感染は指数関数的な動きをするから
長期見通しはさらに不確実
「予測」としての価値はほぼないであろう位に不確実
が、様々なシナリオを眺めることで、「新たな気付き」が生まれる可能性
モデル分析の活用の仕方の指針
「我々のモデル分析を参考にする際に心に留めてほしい3つの事」
https://covid19outputjapan.github.io/JP/disclaimer.html
「(2月6日)緊急事態宣言解除基準分析の解説・モデル分析活用の心得」
https://covid19outputjapan.github.io/JP/files/Covid19OutputJapan_Note_20210206.pdf
「(3月7日)経済モデルに基づく政策分析・提言」、「(3月7日)シンプルなモデルに基づく政策分析・提言」
https://covid19outputjapan.github.io/JP/files/FujiiNakata_Slides_20210307b.pdf、
https://covid19outputjapan.github.io/JP/files/FujiiNakata_Slides_20210307c.pdf
(1)どういった未来を目指したいのか(目標設定)、 (2)その未来を実現するためには何をすべきか(戦略)、を議論する際の一つの参考資料として活用して下さい
シミュレーションについて
当シミュレーションではSIRDモデルに経済活動を組み込み、感染症の拡大リスクと経済損失を同時に分析する。
シミュレーションには下記のパラメータ及び予測値を使用。モデルに当てはめる前にパラメータ群を推計している。
パラメータ
・人流とGDPの関係
・デルタ型変異株割合(陽性者のうちのデルタ株感染者の割合)
・重症化率(陽性者のうちの重症化者数の割合)
・死亡率(陽性者のうちの死亡者数の割合)
・入院率(陽性者のうちの入院率数の割合)
予測値
・1日あたりの新規感染者数の増減の経過(月曜日から日曜日までの感染者数の平均人数)
・1日あたりのワクチン接種本数
モデル詳細
Fujii and Nakata , “Covid-19 and Output in Japan",
https://covid19outputjapan.github.io/JP/files/FujiiNakata_Covid19.pdf
今後5年間のコロナ感染と経済活動の見通し(東京都):仮定
■年末までに、ワクチン接種希望者のほとんどが2本目の接種完了と仮定
■基本シナリオでのワクチン接種希望率
■高齢者:90%、13歳から64歳:75%、12歳以下:0%
■人口全体の約75%がワクチン接種希望
■下記の基本感染予防効果の下では、人口の約40%(=25+75*0.185)がワクチンによって免疫を獲得できていないということ
■希望シナリオでのワクチン接種希望率
■高齢者:95%、13歳から64歳:90%、12歳以下:0%
■人口全体の約85%がワクチン接種希望
■下記の基本感染予防効果の下では、人口の約32% (=15+85* 0.185 )がワクチンによって免疫を獲得できていないということ
■ワクチン接種の感染予防効果の仮定
■基本シナリオ:1本目45%、2本目81.5%
■「SPI-M-O: Summary of further modelling of easing restrictions – Roadmap Step 4 on 19 July 2021, 7 July 2021」
■https://www.gov.uk/government/publications/spi-m-o-summary-of-further-modelling-of-easing-restrictions-roadmap-step-4-on-19-july-2021-7-july-2021
■悲観シナリオ: 1本目45%、2本目70%
■ワクチンの感染予防効果が時間と共に低下し、それを補完する追加的な策が効果的になされないイメージ
■感染予防効果の減退は、この悲観シナリオで捉えているよりもさらに早い・大きい可能性も十分にある
今後5年間のコロナ感染と経済活動の見通し(東京都):仮定
■基本再生産数の仮定
■3, 4, 5, and 6
■「コロナ危機後の基本再生産数」には大きな不確実性がある事に留意
■「感染症対策が取られる前の時期の基本再生産数*2倍(デルタ株の従来株の感染性)」だと、デルタ株の基本再生産数は5-6くらいが妥当であると考えられている
■過去の東京の実効再生産数と様々な人流Measuresとの関係から見えてくる「コロナ危機後の基本再生産数」は4ー5くらいが妥当だと言える
■この計算ではアルファ株・デルタ株の推移、ワクチン接種の進捗ペースを明示的に考慮
■Nakata and Okamoto (2021) : The Basic Reproductive Number in Tokyo: Mobility-Based Estimates
■4-5くらいは「感染症対策が取られる前の時期の日本での基本再生産数の推定値*2倍」とも整合的
■Kuniya (2020): Evaluation of the Effect of the State of Emergency for the First Wave of COVID-19 in Japan
■「感染症対策が取られる前の時期の武漢での基本再生産数の推定値*2倍」とも整合的
■接触率を低く保ちつつ社会・経済活動を営めるようなテクノロジー・慣習の浸透は、基本再生産数の減少と解釈できることに留意
今後5年間のコロナ感染と経済活動の見通し(東京都):仮定
■コロナ医療体制(受け入れ病床数)に関して2つのケース
■現状維持
■現状の2倍の受け入れ能力
■現在の緊急事態宣言に関する仮定
■2021年10月末に解除
■解除後6か月かけて経済活動をコロナ危機前のレベルに回復と仮定
■将来の緊急事態宣言に関する仮定
■宣言中の経済活動レベル
■基本再生産数が4の際:基本、希望シナリオでは第2回宣言時(2021年1月)の経済活動低下の0.9倍、悲観シナリオでは1.1倍
■基本再生産数が4より高いとき:より大きな経済活動の落ち込みを設定。そうすることにより感染者数・重症患者数が宣言中に減少する
■宣言解除後は6か月かけて経済活動をコロナ危機前のレベルに回復と仮定
■新規感染者数がX人を上回った時点で時点で宣言発令
■それぞれのシナリオにおいて、「基本再生産数が4の際に重症患者数(国基準)が現状キャパの約1倍・約2倍でピークアウトするように」 Xを選択
■1倍・2倍のとき:約7,000人で発令・約12,000人で発令
■新規感染者数が1000人を下回った時点で時点で宣言解除
※重症患者の基準
・都基準:人工呼吸管理またはECMOを使用している患者
・国基準: 集中治療室(ICU)等での管理、人工呼吸器管理又は体外式心肺補助(ECMO)による管理が必要な患者
重要ポイント(1)
■ワクチン接種完了後の未来に関しては不確実性が非常に高い
モデルの中での重要パラメターに関する不確実性
何が正しいモデルか、に関する不確実性
■楽観的なケース
基本再生産数が低い・ワクチン接種希望者が多い
PCR陽性者数で捉え切れていない感染者数が多く、その人達の多くが免疫を獲得している
ワクチン効果があまり減退しない、減退するがそれを補完する政策がとられる
低い接触率でも通常の社会・経済活動を保てる体制
非常に楽観的なケースでは、年末から社会・経済活動を段階的に再開した場合、現状のコロナ医療のキャパシティを超えることは無い
■悲観的なケース
基本再生産数が高い・ワクチン接種希望者が少ない
ワクチン効果が減退していくがそれを補完する政策がとられない
低い接触率で社会・経済活動を保てない体制
非常に悲観的なケースでは、コロナ医療キャパシティが現在の2-3倍でも、今後5年間の間に大きな社会・経済活動の制限を何度も繰り返す必要がある
重要ポイント(2)
■ワクチン接種率上昇は、累計死亡者数を抑えるだけでなく、経済損失を減少させることが可能
■基本ワクチンシナリオと希望ワクチンシナリオの比較から導かれる結論
■ワクチンの感染予防効果が時間と共に減退する場合は、その減退を抑制する施策を取らなければ、感染・経済の見通しは悪化する
■基本ワクチンシナリオと悲観ワクチンシナリオの比較から導かれる結論
■コロナ医療体制の強化は、累計死者数を必ずしも増やさずに社会・経済活動の正常化を可能にする
■それぞれのワクチンシナリオで、医療体制現状維持・2倍のケースを比較することから導かれる結論
■コロナ医療体制の強化=致死率を増加させずに感染者数増加を現状よりも許容
■ワクチン接種開始前のロジック:「緊急事態宣言中に感染を抑えきることで、累計死者数と経済損失を両方減らすことが可能」
■ワクチン接種前のロジックの理論的背景
■東京都での緊急事態宣言解除分析(2021年1月から3月まで):https://covid19outputjapan.github.io/JP/tokyo_20210202.html
■ワクチン接種開始前には、感染を抑えきることには「ワクチン到来(そしてそれによる重症化率・致死率低下)まで時間を稼ぐ」というベネフィット
■ワクチン接種完了後には、このロジックは必ずしも当てはまらない
■ワクチン効果が減退した場合には、3回目の接種まで「時間を稼ぐ」というベネフィットが存在し得る
■効果的な治療薬が登場する可能性がある場合には、その登場まで「時間を稼ぐ」というベネフィットが存在し得る
■接触率を低く保ちつつ社会・経済・文化活動を営めるようなテクノロジー・慣習の浸透は見通しを改善する
■それぞれのシナリオ・ケースで基本再生産数が低いほど感染・経済の見通しが良好することから導かれる結論
留意点
■累計死者数は「コロナ感染による死者」のみを考慮
■コロナ医療体制強化が他の通常医療制限につながり、その制限を通してどのくらい他の原因による死者数を増加させるかは考慮していない
■緊急事態宣言の度重なる発令によって社会的・経済活動停滞が長期化することによって、自殺者数が増加する可能性は考慮していない
■Batista, Fujii, and Nakata (2021) 「COVID-19 and Suicides in Japan」で、コロナ危機によるこれまでの追加的自殺を試算
■重症患者数・死者数の試算は以下の要素を不完全にしか考慮していない
■新規感染者におけるブレークスルー感染者の割合が大きく上昇した場合、新規感染者全体の重症化率・致死率の低下が起こると考えられる。その影響は、この分析では不完全にしか考慮されていない
■この分析での将来の死者数・重症患者数が悲観的過ぎる可能性
感染と経済の長期見通し
基本シナリオ
<人口全体の75%がワクチン接種・感染予防効果81.5%>
医療体制:現状維持

Note 1: 黒・青・赤・紫(基本再生産数3・4・5・6)
Note 2:それぞれのケースにおいても大きな不確実性がある事に留意
Note 3:死者数は、全ての患者に適切な対応がなされた場合の死者数であり、そうでない場合には大幅に増加する可能性がある
医療体制:現状の2倍

Note 1: 黒・青・赤・紫(基本再生産数3・4・5・6)
Note 2:それぞれのケースにおいても大きな不確実性がある事に留意
Note 3:死者数は、全ての患者に適切な対応がなされた場合の死者数であり、そうでない場合には大幅に増加する可能性がある
基本シナリオ
<人口全体の85%がワクチン接種・感染予防効果81.5%>
医療体制:現状維持

Note 1: 黒・青・赤・紫(基本再生産数3・4・5・6)
Note 2:それぞれのケースにおいても大きな不確実性がある事に留意
Note 3:死者数は、全ての患者に適切な対応がなされた場合の死者数であり、そうでない場合には大幅に増加する可能性がある
悲観シナリオ
<人口全体の75%がワクチン接種・感染予防効果70%>
医療体制:現状維持

Note 1: 黒・青・赤・紫(基本再生産数3・4・5・6)
Note 2:それぞれのケースにおいても大きな不確実性がある事に留意
Note 3:死者数は、全ての患者に適切な対応がなされた場合の死者数であり、そうでない場合には大幅に増加する可能性がある
FAQ1
■ワクチン接種完了後に感染の大きな波が何故また来るの?
■(1)デルタ株の感染性が高いこと、(2)ワクチンの感染予防効果が100%ではないこと、が理由
■以下、back-of-the-envelope calculation
■基本再生産数2.5,ワクチンの感染予防効果100%
■2.5*(1- 100/100*X)<1
■1-X < 1/2.5、1- 1/2.5 < X、1- 0.4 < X
■X > 0.6
■ワクチン接種率6割超で、新規感染者数が下がり始める
■基本再生産数5,ワクチンの感染予防効果75%
■5*(1- 75/100*X)<1
■1- 0.75*X < 1/5、 1- 1/5 < 0.75*X、 0.8 < 0.75*X
■X > 1.06
■ワクチン接種率100%でも、新規感染者数が下がり始めない
■現実はもっと複雑。でも上記のback-of-the-envelope calculationはある程度有効
FAQ2
■ワクチン希望者の接種完了後には、医療逼迫の心配はしなくていいのでは?
■必ずしもそうは言えない
■何故?
■上記の基本シナリオでは、東京都において、希望者接種後に約400万人がワクチン未接種
■そのうち、高齢者:約30万人。40-64歳:おそらく約100-150万人
■この人々の重症化率・致死率は高い
■さらに、ワクチン接種したけれど免疫を獲得できなかった人々が約200万人
■この人々の重症化率・致死率はワクチン未接種者と比較して90%・95%ほど低い
■が、ゼロではない
■感染予防効果が時間と共に低下することも考慮すると、長期的に医療逼迫が起こる可能性は十分ある
FAQ2
■国全体での人口比率
■65歳以上: 約3,600万人
■13歳から64歳: 約7,300万人
■12歳以下: 約1,200万人
■Note: 医療従事者(470万人)を除く
■Data Source:https://www.stat.go.jp/data/jinsui/topics/topi1251.html
■東京都での人口比率
■14歳以下: 約160万人
■15歳から64歳: 約910万人
■65歳以上: 約310万人
■Note: 医療従事者含む
■Data Source: https://www.toukei.metro.tokyo.lg.jp/juukiy/2020/jy20qf0001.pdf
■毎週火曜日分析を更新
https://Covid19OutputJapan.github.io/JP/
■質問・分析のリクエスト等
■dfujii@e.u-tokyo.ac.jp
■taisuke.nakata@e.u-tokyo.ac.jp