第5波後(10月以降)に関する過去の分析結果
ワクチンの感染予防効果が減衰することによる感染状況悪化の可能性
・人出が平時比▲3割に維持されたとして、ワクチンの感染防止効果の減衰を加味すると、感染者数は横ばいから増加に転じる
ブースター接種の顕著な効果
・3度目接種の実施等により減衰効果を無視できる場合には、人出が平時比▲3割に維持されれば感染者数は減少を続ける
人出が平時に戻ることのリスク
・人出が平時比まで増加した場合には、減衰効果を無視できたとしても感染者の大幅増加を招く
※1 平時は、ビフォー・コロナを表す。
平時比▲3割の人出は、2021年9月半ば時点での人出に相当する。
本資料での考察:抗体カクテル投与の効果
<概要>
抗体カクテルの投与が入院患者数や死者数に及ぼす影響を考察
<結果>
現在確保された総投与回数の下で、死者数は一定程度減少
投与を基礎疾患のある者に限定した場合: 死者数はさらに減少
総投与回数が増加した場合: 死者数はさらに減少
中等症以上の患者数の増加を遅らせる効果は顕著でない
<含意>
供給量が限定されている現状、基礎疾患のある者のみへの投与は死者数減少に貢献
抗体カクテルの供給量増加が実現すれば、死者数はさらに減少
供給量が増加した場合も、病床逼迫緩和の効果は限定的となるおそれ
エージェント・ベース・モデル
・『ワクチン普及後の行動制限解除』(COVID-19 AI & Simulation Projectとして8/24公開)を基本とする、東京都を対象としたモデル
・個人の属性:年齢・性別・産業・職業・外食頻度・基礎疾患の有無(今回追加)
・個人の感染・重症化確率は、年代(10歳刻み)と基礎疾患の有無によって決定
・対人接触する場面:家庭、学校、職場、高齢者施設、飲食店、その他不特定多数の接触
・Chiba, Asako. 2021. "The effectiveness of mobility control, shortening of restaurants' opening hours, and working from home on control of COVID-19 spread in Japan" Health & Place 70: 102622.
・Chiba, Asako. 2021. "Modeling the effects of contact-tracing apps on the spread of the coronavirus disease: Mechanisms, conditions, and efficiency" PLoS ONE 16(9): e0256151.
・参考 Kerr et al. (2020)
シナリオ:検査、外出制限、ワクチン
・日次の都内新規陽性者数が800人程度をDay0とする
・δ株の感染力(「直近の人出とワクチン接種状況を再現したシミュレーションで実際の感染者数を再現する感染力」として推計)
・検査
有症者の3割に対し検査を実施(検査の感度は7割)
・外出制限
ワクチン未接種者の外出のみが平時比▲3割となり、
接種完了者の外出は平時に戻ることを想定(ワクチンパス等)
・ワクチン
δ株への感染防止効果と、接種後半年後からの効果の減衰を考慮
ワクチンの効果と減衰スケジュール
・デルタ株に対する感染予防効果
→ 感受性:85%、重症化率:50% (2回目接種完了時、未接種者比)
・感染予防効果の減衰
・2回目を接種して6か月後、感受性は60%(未接種者比)に低下
・解除時点(10月初頭)でのワクチン接種状況
(首相官邸発表実績より作成。9月の接種者数は月内の実績から推計。)
「抗体カクテル投与」シナリオ
・抗体カクテルを投与された場合、中等症化を予防する効果は7割と想定
・「総投与回数を2万回分とし※1、 検査陽性者に対して陽性判明翌日に投与」をベースラインのシナリオとし、以下の仮想シナリオと比較
・投与対象者を「基礎疾患を有する検査陽性者※2 」に限定
・総投与回数がベースラインの10倍
・総投与回数がベースラインの20倍
※1 全国での確保が20万回分であることから都内分を概算
※2 「基礎疾患を有する者」のモデル化
・高齢者(65歳以上)の35%が基礎疾患を有すると想定(P.8参照)
・「基礎疾患を有する者が軽症から中等症になる確率」は、そうでない同年代の値の2.5倍(P.9参照)
※3 当モデルでは、軽症→中等症→重症→死亡の状態遷移を想定しており、現実にどの段階の確率が何倍になるのかは無数の可能性が考えられるが、今回のシミュレーションでは「軽症から中等症に至る割合が2.5倍で、その他は基礎疾患の有無によらない」と想定を置いた。この想定では理論上、抗体カクテルを基礎疾患のある者のみに限定して投与した場合に最大限病床逼迫(中等症以上の患者数)を軽減できる。
データ:基礎疾患がある高齢者の致死率は2倍以上
症例致命割合
(国立感染症研究所(2021)、『COVID-19レジストリデータを用いた新型コロナウイルス感染症における年齢別症例致命割合について』より作成。)
症例致命割合は、疾患にかかった方が亡くなる確率を示し、死亡数/診断症例数で表される。
サマリー:抗体カクテル投与で死者数は一定数減減少。
現在確保された総投与回数のもとでは、抗体カクテルの投与は4か月間の死者数を数百人程度減少させる
同じ総投与回数で、投与対象を重症化率の高い基礎疾患のある者に限定した場合には、死者数はさらに数百人程度減少する
中等症以上の患者数の増加を遅らせる効果は顕著でない
⇒ 抗体カクテルの投与は、死者数を一定程度減少させる効果が
あり、対象を基礎疾患のある者に限定することで効果が倍増する。
(病床逼迫を大きく遅らせる効果は確認されず)