COVID-19 AI・シミュレーションプロジェクトについて
AI等技術を活用したシミュレーション
COVID-19 AI・シミュレーションプロジェクトでは、新型コロナウイルス感染症の感染防止対策と経済活動の両立を図るため、テクノロジーの活用可能性を検討します。
AI等を活用した感染拡大の早期探知等に係るデータ収集・分析やシミュレーション、感染防止対策に資する新技術の開発、その結果を社会実装するための検証等を行っています。
多角的な観点からの科学的アプローチ
今般のパンデミックのような不確実な事象の予測・対処のためには多角的な検討が必要です。多様なモデル・検証手法を俎上に載せて吟味することによりその妥当性を高めるとともに、異なるアプローチを採用するチーム・モデル間の意見交換によりさらなる精緻化を促す必要があります。
例えば、感染予測においてはSEIRと呼ばれる感染症数理モデルを用いて感染状況を定量的に把握することが一般的です。一方、現実世界では、より複雑な人々の動きも観察され、それに応じた感染状況が生じ得ることから、多様な要素がダイナミックに連関して感染が拡がる状態を考慮するためにマルチ・エージェント・モデル、複雑ネットワーク理論を考慮した研究も有効と考えられています。
また、刻々と変化する最新のデータや状況に応じて仮説やシミュレーションの前提のアップデートを行うことは基本的な科学的態度として重要です。本プロジェクトでは、複数のアプローチを採用するチーム間での協議を随時行っており、それぞれのモデルの得意領域や特性に応じた分析を踏まえ、その最新の成果を迅速に公表していきます。
シナリオベースの検討
本プロジェクトでは単純な予測ではなく、「・・・という状況になった場合にどのようなことが起こり得るか」という様々なシナリオに対して分析を行います。予測結果自体が人々の行動変容に影響を与える状況下では、単一シナリオのみで不確実な状況に解を出すのではなく、様々な可能性を考慮した複数シナリオ下における対処の方針を検討しておくことが重要です。
新型コロナウイルス感染症の拡大には、ワクチン接種の進捗状況や医療リソースの多寡、緊急事態宣言の効果等、不確実かつ多様な要素が複雑に絡み合って影響しています。本プロジェクトでは、様々な分析モデルを使い分け、各種シナリオを想定した政策決定上の材料の提示を目指します。
本プロジェクトの体制
刻々と変わる状況に対応し、迅速に科学的なエビデンスを提供できる体制が求められています。本プロジェクトでは、各研究開発領域について、個別研究開発チームとオープンコラボレーションパートナーズ(OCP)(以下、研究チーム)を公募により採択しています。また、その研究成果の迅速な公表と科学的な妥当性を担保する観点から、各個別研究開発テーマに対し、それぞれの専門家委員が専門的な見地からアドバイスを行い、研究の進捗状況を随時公表しています。
将来のパンデミックに対する備え
新型コロナウイルス感染症の終息に向けて様々な対策が打たれているところですが、パンデミックとの戦いは新型コロナ感染症で終わるものではありません。将来の他のパンデミックに備える意味でも、分析知見を蓄積・公開するとともにその検討経緯を残すことが重要です。
感染実態をより正確に分析し、意味のあるシミュレーションにするためには、多様なデータにリアルタイムでアクセスする必要があることがわかっています。例えば、粒度の高い人流密度データ、人流移動データ、ゲノム配列情報、海外出入国状況、クラスター分析データ、医療リソースデータ等がこれに該当します。このようなデータ・アクセス体制の整備についても本プロジェクトを通じて行っていき、国家の安全保障としてのパンデミック対策のあり方の検討に資する知見の整理を行っていきます。
開発リサーチクエスチョンの全体説明
新型コロナウィルス感染症(COVID-19)は、令和2年1月31日に世界保健機関(WHO)の「緊急事態宣言」が発出されて以来、世界的にも感染拡大が収まらず、国内では2020年10月以降の第3波の感染拡大により一部地域での緊急事態宣言により感染者が減少したものの、完全に収束したとは言えず、新常態生活によるリバウンド、変異種などが原因で再び感染拡大が危惧されている。
本プロジェクトは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染防止対策と経済活動の両立を図るため、企業やアカデミア等におけるAI等を活用した感染拡大の早期探知等に係るデータ収集・分析やシミュレーションの実施、感染防止対策に資する新技術の開発、その結果を社会実装するための検証等を行う調査研究を行い、シミュレーション事業で得られた成果を社会課題の解決および必要とされる政策提言や具体的な施策の立案・実行に資することを目的として行うものである。
2022年度の研究領域(リサーチクエスチョン)の説明
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2022年度リサーチクエスチョン1 新技術の活用
感染拡大防止に資する新技術等の展開による「新たな日常」の構築支援。
論点例:
- (1-1)
- SNS/Web 上の情報を基にAI 等を⽤いたデータ解析を⾏うことによって、感染症の流⾏・拡⼤の兆しをつかむ⽅策を提⽰できないか。
- (1-2)
- 飲食店や公共交通機関等の屋内において、大声、通常会話、咳等による飛沫の飛散状況をシミュレーションすることにより、飛沫感染に対する効果的な対策につなげられないか。
- (1-3)
- 人体への害の少ない波長域の紫外線を活用したウイルス不活化技術の実用化により、紫外線カーテンによる感染防止策を実現できないか。
- (1-4)
- AI 等を活用することで、従来の検査以外の手法によって新型コロナウイルス感染症の診断を行う手法を提示できないか。
- (1-5)
- より迅速に検査を実施できるよう、検査の高速化や自動化に資する技術を確立できないか。(注)研究テーマは、情勢に応じて有識者と相談しながら随時見直し・追加する。
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2022年度リサーチクエスチョン2 感染状況シミュレーション
将来の感染状況のシミュレーションや、感染拡大が医療や経済に与える影響のシミュレーション。
論点例:
- (2-1)
- SNS/Web 上の情報を基に AI 等を活用したデータ解析を行うことによって、感染症の流行・拡大の兆しをつかむ方策を提示できないか。
- (2-2)
- 将来の新規陽性者数や重症者数について、幅広いアプローチによりシミュレーションを実施できないか。また、感染拡大が医療資源や経済に与える影響についても、同様にシミュレーションを実施できないか。
- (2-3)
- 諸外国と日本の感染状況を比較することにより、感染拡大・縮小の要因を分析することが出来ないか。
- (注)
- シミュレーションのテーマは、情勢に応じて有識者と相談しながら随時⾒直し・追加する。
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2022年度リサーチクエスチョン3 下水サーベイランス技術の開発
下水中のウイルス検出・監視を感染拡大防止につなげる下水サーベイランス技術の開発。
論点例:
- (3-1)
- 下水中のウイルス検出について、より検出感度の優れた検査方法を開発できないか。
- (3-2)
- 下水中のウイルス検出がより簡易・安価、かつ継続的に実施可能となるような技術を開発できないか。
- (注)
- 研究テーマは、情勢に応じて有識者と相談しながら随時⾒直し・追加する。
2021年度の研究領域(リサーチクエスチョン)の説明
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2021年度リサーチクエスチョン1 感染拡大の早期探知
AI 等を用いたデータ解析によって感染症の流行・拡大を早期に探知する新技術の実現を目的とし研究開発を行います。
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2021年度リサーチクエスチョン2 感染防止シミュレーション
ウイルス飛散状況のシミュレーションとその検証を行い、各種ガイドライン等に反映することを目的とし研究開発を行います。
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2021年度リサーチクエスチョン3 感染拡大・抑制シミュレーション
感染状況の推定、感染が医療や経済に与える影響等を臨機応変に行うことが可能なシミュレーター(ソフトウェア)の構築を目的とし研究開発を行います。
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2021年度リサーチクエスチョン4 新技術導入
感染拡大防止に資する新技術の展開による「新たな日常」の構築支援を目的とし研究開発を行います。
2020年度の研究領域(リサーチクエスチョン)の説明
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2020年度リサーチクエスチョン1 「分野別ガイドラインの進化」のために必要な「室内気流シミュレーション」、「飛沫の見える化」
感染防止のためのガイドライン策定、オフイスや商業施設、公共空間等におけるウイルス飛散状況のシミュレーションとその検証を可能とし、効果的な感染防御対策の実施を可能とする一連の研究開発と実装展開。
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2020年度リサーチクエスチョン2 「接触機会低減」のための「ICT、IoTの活用」(ウェアラブル機器を用いて接触回避などを行う)
日常生活において、ハイリスクな接触機会を低減する方策を効果的な実施とデータに基づく効果検証を可能とする一連の技術の開発と展開、さらには、ウイルスの飛散状況の即時の可視化と不活性化の実現。
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2020年度リサーチクエスチョン3 「検査効率化・信頼性向上」に必要な「PCR、抗体検査等の効果的組合せ」
SARS-CoV-2感染に対する宿主の免疫系の応答の理解、さらには、国内外における感染状況に関するモニタリングを可能とし、感染防御対応策の効果の比較や国際的な人的移動の影響の予測と検証を可能とする信頼できる標準検査手順の確立ならびに、それらデータの共有を可能とすること。
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2020年度リサーチクエスチョン4 「第二波対策」として必要な「感染予測・対策の効果検証」(SIRモデルの代替となるモデルの確立)、「必要な医療リソース(病床・医療物資等)の需要予測と最適配置」
SARS-CoV-新型コロナに関する感染状況の推定と感染拡大・抑制シミュレーションは、どの様な対応策を実施・解除するのか、対応策の効果予測と検証、医療リソースへの負荷予測、経済的インパクトの予測などに関連し、重要な政策立案・決定支援ツールとなる。刻一刻と新たな知見がもたらされ、動的に変化する状況に対応する感染拡大・抑制シミュレーション・システムの開発とその導入と連続的改良、ならびにこのシミュレーションを意味のあるものにするために体系的データ獲得・整備の手法と運用の確立を行う。
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2020年度リサーチクエスチョン5 「早期検知と重症化回避」のための「CTスキャン画像分析」、軽症者等のモニタリング、重症化リスク予測、ウイルス変異の影響の理解 等
COVID-19の早期終息にむけた感染防御、ワクチン開発、治療法の開発に必要な生物学的な知見の加速度的な獲得、スーパースプレッダーや重症化リスクのある患者など重点的に迅速同定する必要のある感染者の発見手法の研究開発を行う。さらには、今後予想される新興感染症に対するシスティマティクな臨床研究基盤を迅速に構築する。さらに、SARS-CoV-2の変異による感染性や病原性の変化、さらにはそれらの変化がワクチンや治療薬の開発に及ぼす影響の理解を促進し、予防・治療方法の開発に貢献する。さらに、今後想定される新興ウイルスに関しても応用可能な手法を確立する。
*掲載された資料は、内閣官房が行った「COVID-19 AI・シミュレーションプロジェクト」において、コロナ対策の効果等の分析のため、各研究者がそれぞれモデルを構築して行ったシミュレーション結果等を説明するものです。この資料内で説明されるシミュレーション等の結果については、政府の公式の見解を示すものではありません。